広告代理店初級講座

第1章広告代理店の仕事

1 広告代理店の商品

あなたは広告代理店というものをまったく知らない人だとしましょう。それでも電通とか博報堂とかの名前は聞いたことがある。テレビCMを作っていて、夜ごと六本木のクラブでスポンサーの接待をし、芸能人のお友達がいっぱいいて、運がよけりゃ女優さんを嫁さんにできる商売…程度の知識はあるかもしれない。とりあえずそういうイメージはそのへんのゴミ箱にでも捨ててください。あ、捨てなくてもいいか。自分の部屋の壁にピンナップして時々眺めてもよろしい。人間夢を持つのも大切ですから。で、現実の話をしましょう。広告代理店は、大根とか電気釜とかの通常の商品は売りませんが、それでもある「物」は売ります。それが「スペース」と呼ばれる「物」です。雑誌や新聞なら広告を掲載するページ、TV・ラジオならCMの流れる時間枠、その他電車の中吊りからビルの看板、チラシ、街頭配布のティッシュ、最近ではインターネットのホームページに至るまで、およそ広告が出せるものは全て「スペース」として広告代理店が扱います。スペースとしての機能を持つもの(印刷物、電波、etc.)を媒体といいますが、広告業界では通常、媒体を所有する会社(出版社、テレビ局など)を媒体社あるいは単に媒体と呼びます(ちょっとややこしいですね)。広告代理店は媒体からスペースを仕入れ、そのスペースにクライアントの広告を載っけるのが仕事。クライアントが出す広告料金から何割かのマージンを頂くことで商売が成立します。だから広告代理店にとって「スペースの仕入れ」と「広告をとること」は、車の両輪のようなもの、どちらが欠けても会社は成り立たないわけです。この「スペース」という商品のむずかしいところは、賞味期限(入稿期限)をきっちり守って必ず売切らなくちゃいけないこと。大根なら萎びたものは捨てればいいけど、スペースはそうはいかない。「スペースに穴を空ける」のは広告マンとして一番やっちゃいけないこと。警官の盗み、教師の痴漢、食品会社の食中毒事件(最近はよくありますが)、等と同じくらい恥ずかしいことだと思ってほしい。「スペースをきちんと売る」ことが広告マンの基本的な営業活動だということです。

2 媒体

この項では主に雑誌媒体の話をします。媒体は、広告収入がなければ経営が成り立ちません。もし雑誌に広告がないと、出版社は編集費用・紙代・印刷代・会社の家賃その他もろもろを雑誌の販売代金だけでまかなわなければならず、そうなると雑誌の価格はおそらく1冊ン千円になって、そんな雑誌はいくら面白くても誰も買いません。(テレビ・ラジオの場合、民放は受信料を取らないから経費はほぼ100%広告収入で賄っています。)そこでスペースを提供して広告を入れることになる。もちろん媒体が直接クライアントから広告をとってもいいけど、そうすると何千何万とあるクライアントと交渉するための人員が必要になる。人件費を考えるとそれは得策じゃない。そこで「広告代理店」の登場となるわけです。媒体側としては広告は欲しいけども誌面のイメージを落とさないか、読者のニーズに合うか、法的に問題のない商品かなど、いろいろ条件も出したい。条件をきちんとクリアして、しかも広告料金も値切らずに払ってくれるお客さんが一番ありがたいわけです。ところがどんな業界でも同じですが、理想的なお客さんだけで商売できるところはありません。代理店の仕事はいわば媒体とクライアントの調整役。媒体に対しては「こういうお客がいて、おたくに広告を出したがってます。この条件は守りますからその代わり料金をこのくらいに…」クライアントに対しては「この料金で広告を載せてもいいと媒体が言ってますが、その代わりこの条件は厳守で願います」など双方の妥協点をみつけて話をまとめるわけです。媒体にとって継続的、かつ大量に質のいい広告を入れてくれる代理店は、エサを運んでくれる親鳥のように頼もしい存在なわけです(そう思っているかどうかはわかりませんが)。

3 クライアント(広告主)

広告代理店のお得意様、お客様のことをクライアントといいます。スポンサーともいいますが、これは主に電波媒体の番組提供社を差すことが多いようです。クライアントの条件は最低3つ挙げられます。(1)広告する商品(またはサービス)を持っている (2)広告意欲がある (3)広告予算がある。なにか当たり前のようですが、いくら攻めても広告がとれない場合、このどれかが欠けていることがあるから要注意です。1日100本の団子を作る団子屋があって午前中に全部売り切れてしまうなら、この店は広告を出す必要がないわけです。そのうち小金を儲けた団子屋が1日1000本作るようになった。でもどうしても800本しか売れない。そうだ宣伝しよう…と、そこに広告代理店のニーズが生まれるわけです。昔、ある靴メーカーのセールスマンが二人アフリカに営業に行った話があります。現地を見てひとりはがっかりして本社に電報を打った。「こんなとこで靴は売れない。誰も靴なんか履いていない」ところがもうひとりは狂喜して電報を打った。「なんと誰も靴を履いていない。ここなら無尽蔵に売れる」。どこでクライアントを見つけるか、どんな業種にアタックするか、そのへんが広告マンのセンスかもしれません。クライアントは広告料金を払うからには必ずそれに見合う広告効果を期待します。売上が上がる、知名度が上がる、動員数が増える…なんらかの効果がなければ、あるいは効果があったと思ってくれなければ、次の注文はもらえません。お客様に合った媒体選びと企画の善し悪しがそれを決定するのです。

第2章・スペースの仕入れと営業活動
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